目が覚めたら、ラグナロクの世界でした。  なんと言う境遇、オタな私にこんな事が起こるなんて夢広がりんぐ。とでも言えないのがこの現 状。  ダンサーの美女、アサカは深いため息を吐いて椅子に座り込んだ。 「こんな状況に、『OS』なんて…。  こんな状況、だから…?」  項垂れているアサカに私はどうすべきなのかわからなくて、おろおろと彼女を見る。 「……リトさんにどう説明するのよ…」 「えっと…、あの『リトさん』って…」  尋ねた私にアサカはキッとこちらを見る。 「アンタのお兄さんでしょう!?そんなことも忘れたの!?」 「お、お兄さん…って、あ、あの…ハイプリーストのリトの事、だよね…?純支援の…」 「あたりまえで……っ、  ……アンタ、それは知っているの!?  ……そっか…『OS』だもんね…。考えられないことも、ないのね……」  深いため息。ううん、力無くして零れ落ちた気持ちの吐息。声を掛けるのは気が引けたけど、で もさっきからアサカが口にしている単語が気になった。 「ねぇ、さっきから言っている『あす』って、何?ギルドにはそんな名前の人、いないよね?」  私がここにいる手掛かりになると思って。  呟かれた言葉は、私の事をわかっているような気がして。  だけど、アサカは私の問いに顔を上げ睨みつけてきた。 「そんなこと、どうでも良いわよ!!  アンタ誰よ!?ユーリを何処にやったのよ!!?」 「あ、あの、いや、そんな事言われても…私…」 「『私』!?誰よアンタ!!!  返しなさいよ!!ユーリを返してよっ!!!」 「返せって言われても、私には何がなんだか…」 「……っ!  出て行って、出て行けっ!!  人攫いっ!!人殺しっ!!!」  アサカはヒステリックに叫ぶと私に向かって皿を投げつける。射線は私を反れ、壁にぶつかり大 きな音を立てながら割れる。  アサカは次々に手当たり次第に物を投げつけてくる。やめてと言っても、落ち着いてと言っても アサカのヒステリックな叫びは止まらない。  逃げ出すしか、私には無かった。 「追い…出されちゃった」  いきなりのシチュエーション。あまりの急展開に茫然自失の私が一人。  起きて着替えて、何も持たず無一文。武器も無ければアイテムも無い。  ど、どうしたら良いんだろう……?  それにしても、リト、かあ。しかもお兄ちゃんときた。  同アカウントのハイプリースト。一応私のメインキャラ。  となると、他のキャラもいるんだろうか?なんとなく気になったけど、調べる伝手は全く無い。  戻って確認しようにも恐らく無理だろうな。アサカは私に敵意剥き出し状態だ。  そう言えば、ユーリとアサカはいつも一緒に動いてたよね。  こっちの世界でも、ユーリとアサカは相方だったんだろう。  それが突然別人になったら……。  あの行動は、仕方ないことなんだろう。アサカの立場に私が立てば、多分、同じ事をしたかもし れない。 「……困った、なあ」  この世界の知り合いを探すべきだろうか?『4畳半マイルーム』のギルメンとか、友達登録した 人たちとか。……でも、アサカと同じ行動を取られたら…、怖い…なあ……。 「ううーーー」  突っ立てても事態は変わらないのはわかってる。そうだよね、とにかく行動しよう。  元来お気楽思考の私の事、状況は全く良くないのに、パッシブスキル『開き直りLv10』が発動し た。  まずはお金の確保。  都合よくポケットに財布が入っていると言うことは無いようで、正直前にも後にもいけない状況 だけど、とりあえずここがラグナロクの世界ならばカプラさんがいるはずだ。  だめもとで倉庫を見てみて、売れるものがあったら売ってお金を確保しよう。倉庫代、何とかご まかすしかないよね。  現在私は何処にいるかわからない。……けどなんとなくプロンテラにいる気がする。  いつも画面でみるミニマップは当然存在しないわけで、とにかく大きな道を探すべく適当に歩き 出す。 「……ラグナのキャラだー…」  通りを歩けば遠めに見える人、すれ違う人がいる。カートを重そうに引くのは商人の女の子。ふ よふよ漂っている幼女…リーフを従えているアルケミストの男の人。談笑しながら道を行く、ガン スリンガーとアコライトのカップル。  その他にも、プロンテラの住人なのだろう人たちが沢山道を歩いている。  流石プロンテラ、にぎやかな街だ。  しばらく歩けば大きな通りに出る。がらがらがら、と大きな音をたてて目の前を通り過ぎるのは 数匹の馬…じゃない、鳥に引かせた車。鳥車と言えば良いのかな?  というか、ペコだあれ。  ゲームではあんな鳥車なんて見たことなかったけど、あるんだ、こういうのが。  思ったより冒険者の数は少ない。『冒険者』って言うくらいだから皆町の外に出掛けているのか な?  とりあえず、カプラさん、カプラさん、っと。  きょろきょろ視線を彷徨わせて、プロンテラの外壁を探す。流石首都だ、広い、広すぎる。  とにかく見当をつけて、真っ直ぐ進む。北に行かない限りカプラさんはきっと見つかるはず。そ う思って私はプロンテラの町を歩き出した。  遠くで見える見覚えの在る服、カプラさんの服。  ようやく見つけたと駆け足で向かって、見えたカプラさんはデフォルテーでもグラリスでもビニ ットでもソリンでもなかった。……だれ? 「いらっしゃいませ、カプラサービスです」  にこやかな営業スマイルを浮かべるカプラさん。こんなカプラさんいたっけ? 「え、えっと、あの倉庫開きたいんですけど…」  とりあえず用件だけ伝える。 「かしこまりました。お名前をどうぞ」 「『ユーリ』…、ですが…」 「ユーリ様ですね。かしこまりました。  倉庫使用料50ゼニーいただきます」  うっ、きた。 「あ、あのっ、ちょっと事情があって、今無一文なんですっ!  適当なアイテムとったらすぐお金にしますから、どーか、どーか後払いでお願いしますっ!!」  両手を合わせ懇願する私にカプラさんは心底困った顔をした。 「…残念ですが、規約がありまして。先払いが原則となっております。  申し訳ありませんが、使用料を持参の上改めて来て頂けますか?」 「お金持ってきて、と言われても今武器もなんも無いんですっ!  稼ぎに出ようと思ってもそれも出来なくて。  そこを何とかお願いしますっ!!」 「申し訳ありませんが了承致しかねます。  原則を曲げることは出来ませんので、ご理解いただけますか?」 「どーしても、ダメ?」 「申し訳ありません」 「お願いしますよ〜。土下座もしますから〜」 「お客様、おやめ下さい。  こちらも信用を第一にしております。前例は作れません。ご理解いただけますか?」  譲らないカプラさんに泣き落としすら通用しない。なんという徹底した教育だ。  仕方無しにとぼとぼと踵を返す。敗者は立ち去るしかない。  こ、こうなったらポリンなんざ素手で…っ!  ぐぐ、っと拳を握った私の背中をつんつんと突付く感触があった。振り返ればそこにはマーチャ ントがいた。マガレヘアーの小さな女の子だ。 「あ、あの。よかったらこれどうぞ」 「へ?」  マーチャントの女の子は手を私の方に差し出した。その手には銀色の硬貨。 「さっき見ちゃったんですけど、ほらっ、困ったらお互い様って言うじゃないですか」 「えっ、いや待って。  お嬢ちゃん、マーチャントでしょ?商人がそんな事やって良いの?」 「……んー…」  女の子は困ったように首を捻る。そしていきなりぽんと手を打った。 「『せんこうとうし』って言うらしいですよっ」 「………えー…と…」  言葉の意味、判って言っているのかなあ…?  で、でも…、倉庫代が目の前にあって…まさしく据え膳。女の子は再びどうぞと手を向ける。  ちきしょー、可愛すぎるっ!!お持ち帰りしちゃいたいっ!! 「ありがとー。じゃ、じゃあ借りる。借りるだけ。  ちょっと待ってて、ちょーーーっとだけ待ってて!?」  女の子から銀貨を受け取り、その場に待つようにお願いして、私は再びカプラさんの下に向かっ ていった。 「……いらっしゃいませ、カプラサービスです」  先ほどのカプラさんは私の姿を見止めて、一瞬嫌そうな顔をしたけども、すぐさま営業スマイル を浮かべていた。流石カプラサービス。 「これでっ!これで良いですかっ!?」  マーチャントの女の子から借りた銀貨をカプラさんに見せると、カプラさんは小さく頷いた。 「かしこまりました。では倉庫までご案内いたします」  そう言って、カプラさんは僅かに右手を上げる。次の瞬間、私は薄暗い倉庫の中にいた。 「…ザ・イリュージョン…」  突然の瞬間移動。  思わず呟くその単語。 「凄すぎる…」  実体験など出来るわけの無いこの状態。驚きと感動を混ぜこぜて私は倉庫の中で打ち振るいてい た。 「ファンタジーだ!RPGだ!ヒャッホゥ異世界!!」  感動を表す言葉をその口に出す。  ……いや、そんなことより、今はあの女の子を待たしている状態だ。  とにかく売れるものをとっとと引っ張り出さないと…!  棚区分けされた倉庫内。消耗品、装備品、収集品の3項目は色分けされていた上に、その前には リストが載っていた。  収集品棚のリストを眺め、何があるか確認する。  そして気がつく。ゲームと殆ど同じ内容だと。 「これはゲームと一緒、かあ」  共通点と相違点。見極めるのが難しい。 「……ゲームと一緒なら…、多分ある!  ジャルゴン貯金!!」  ジャルゴン貯金とは…!  矢作成の材料となるジャルゴンを溜め込む行為の事だ。  矢筒実装のためその意味は薄くなるが、弓手持ちでいる以上売る事は少なく倉庫に入れる癖がつ いてついつい量が増えていくという。  他にも『トゲえら貯金』『古い鉄板貯金』『闇のルーン貯金』等があり、ただでさえ矢の種類で 圧迫する倉庫内を更に圧迫する要因となっている。よい子は計画的に倉庫を使おうね☆ 「あったあった。ジャルゴンの山が」  日々の生活費がどれくらい必要かわからないから、とりあえずもてるだけ持つことにしよう。  ついでにバードの武器も引っ張り出しておこう。  ……あと、あの女の子にもお礼を渡さないと。  ちょうど良いもの、あれば良いけど…。と見渡して、見つけた花の指輪。  うん、これだ。高過ぎず、安過ぎず、倉庫代のお礼としては順当かもしれない。  さて、どうやって帰るのかと振り返れば、そこのは一つの扉。警戒も躊躇も無く私はその扉を開 け放った。 「ありがとうございました」  気がつけば、外。  振り向けば会釈するカプラさん。  扉は何処にも無い。  ……なんと言う摩訶不思議。これぞファンタジー。  感動よりも先に私は待たせているマーチャントの女の子の元へ向かっていった。 「ごめん、お待たせー」  言うとおりに待っていた女の子は私の顔を見て笑った。やっぱりかわええっ! 「本当にありがとー。一時はどうなるかと思ったよ」 「よかったですね」 「これ、お返しね。売るなり何なりしてね」  と、花の指輪を女の子に渡す。 「え?良いんですか?」 「『先行投資』なんでしょ?受け取って、受け取って」 「ありがとうございますっ!」  ぺこりとお辞儀する女の子。その姿を見て私は袋に入ったジャルゴンをじっと見た。  売る場所がわかんないし、どうせならOCで売ってもらえたらそれに越したことはない。 「ついでに悪いんだけどちょっとお願いいいかな?」 「はい?」 「ありがとねー」  これから露店を開くと言う女の子を見送る私。  収集品を売る場所まで連れて行ってもらい、ジャルゴンをOCで売ってもらった。  手数料も忘れずに渡したその残りは、それなりに良い額になっている。 「これで当座は安心ね」  得たゼニーを懐に仕舞いこみ、私はプロンテラの町を歩くことにした。  こっちの世界に来たからには見るべき物は沢山ある。  カプラさんはさっき見た。  ホルグレンは必須だろう。  露店とか、ああ、プロ南はどうなっているんだろう。  てくてくと歩いていくうちに、遠く前方に噴水が見えた。 「……プロ、中央、かな?」  遠めにもよくわかる大きな噴水。その周りは広場になっているらしい。  ゲームと一緒だとしたら、あの傍にホルグレンがいるのだろう。  ホルグレンの現物を見るべく、私はそちらに向かって歩いていった。  カーン、カーンと固い何かを叩く音が、店の外まで響いてくる。  『プロンテラ精工所』。そう書かれた看板が扉の上に掛かっている。ハンマーと金敷の絵もその 横に描かれていた。 「…ホルグレンの名前入って無いんだ…」  首都の名前を冠した精工所――精錬所じゃないんだね――はその名の通り大きな店で、恐る恐る 鉄の貼り付けられた扉を開けば、そこは熱気の溢れる室内だった。 「よぅ!いらっしゃい!」  威勢の良い挨拶を受け私は慌ててそちらを見る。  うわっ!  そこにはスキンヘッドの筋骨隆々なおじさんがワイルドスマイルを浮かべて立っている。  …ホルグレン?いや、まさか。ホルグレンはちゃんと髪の毛あったはず。と言うかホルグレンの ところにはスキンヘッドなキャラはいなかった気がする。 「オーダーかい?それとも精錬かい?」 「…え、あ、えと…」 「……まあどっちにしても、今は時間は掛かるがね」 「どういう事?」 「今王国騎士団の方から大型の受注が来ているんでね。  そっちが優先されるってもんさ。  だから、新規発注は早くても3週間後だね。  どうする?」  どうすると言われても、考えてみれば精錬するものなんて持ってないし。流石に今もっている弓 や楽器を精錬するわけには行かない。  それにしても3週間って…。ゲームみたいに、すぐさまカンカン出来るわけじゃないんだ。 「えー…と、発注は見送りで…。  見学してって良いですか?」 「見学?」  私の言葉に疑問符を飛ばすスキンヘッドのおじさん。 「ブラックスミスならいざ知らず、バードの兄ちゃんには面白いもんじゃないんじゃないかい?」 「んー、でもちょっと興味あるかな、と」 「そうかい、別にかまやしないけどな。  悪いけど声は掛けねえでくれよ?ホルグレンの奴も神経すり減らして作業してるからよ」  いるんだ!ホルグレン!  スキンヘッドのおじさんは、店の奥を指で指す。そこには小窓があり、そこから覗けば10人ほ どの逞しいおじさんたちが熱い戦いを繰り広げていた。  大きな釜戸はまるで小さな家一件分もあるようで、熱気があたりを揺らめかせる。  汗だくでハンマーを打ち下ろす人もいれば、どろどろに溶けた真っ赤な、多分鉄をかき混ぜてる 人もいる。  剣の形をした鉄の塊が沢山立掛けられているのも見える。  カーンカーンと澄んだ高い音。熱した鉄が水に晒され、激しい水蒸気がもわっとでる。おじさん たち(若い人もいたけど数は少ない)は皆が皆、真剣な眼差しで作業に当たっていた。  ………凄い。なんだろう、ちょっとかっこいいかも。  どれがホルグレンか判らないけど、でもこれがROの悪名高きクホグレンなのだろうか。  これだけ真摯に鉄を打ち込んでいるのだから、失敗など無いような気がしてきた。  カーンカーンカーン。  鉄の叩く音がひきり無しに響いている。澄んだ鉄の音。こんなに良い音色を出すんだ。  カーンカーンカーンカーン…ガキョン。  ……ん?  いきなり鈍い音が聞こえた。何事? 「おいっ!ホルグレン!何やってんだっ!!」 「くほほほほほ」  ………………………。  ……言った。  今、「くほほ」って言った!!  そうか、言うんだ!というかあれがホルグレンか!!  窓の向こうでは肩を落とすホルグレンらしき人が折れた鉄をはさみで掴んで溶鉱炉に入れていた。  「やり直しか」とか「またかよ」とかそんなぼやきも聞こえてくる。  ………いやあ、実に良いものを見せてもらったなー。    店を出ると日は真上にあった。  天気も良い。面白いものを見れた高揚感から、私はうきうきとプロンテラを歩く。  噴水の近く、南に行けば露店が立ち並ぶだろうけど、ゲームみたいに上が北、下が南というふう になって無いから方向がよくわからない。  とりあえず、ホルグレンの店がここにあるから南はこっちの方だろうと予測をつける。  がらがらと音を立て、ぺこぺこに引かれた車が脇を通り過ぎた。乗っているのは身分の高そうな 人。…貴族、なのだろうか。  プロンテラは王政だから、貴族も当然いるんだろう。ゲーム上では見たことなかったけど、これ がこの世界の現実なんだと実感した。  遠くの城壁は見えず距離は驚くほどある。速度増加も掛ければ噴水から南門までゲームでは10 秒位しかかからないけど、こうやって歩くとなると結構時間が掛かってしまいそうだ。  歩道らしいその僅かに高くなっている通りを南に向かって歩いていく。  そして気がついた。露店の数は決して多くないことに。  ゲーム上ではひしめき合って看板が立ち並んでいたプロンテラ南通りは、道行く人の方が多く、 露店を開いているマーチャント達の姿がぽつりぽつりとしか見当たらない。  道の脇、ひっそりと看板を立て、カートの中の商品を売っているようだ。  ある意味不思議な光景。まるで過疎鯖に紛れ込んだ気分になる。  確かに、道のど真ん中で店開いていたら車の邪魔になるよね。  流石、現実的な状況だ。  その露店の一つ、女のアルケミさんが出している露店を覗き見る。 「いらっしゃいませー」  元気の良い掛け声がアルケミさんから発せられた。この状況で放置露店、できるわけ無いよね。 「旅のお供に白ポーション如何でしょうか?」  丸いフラスコの容器に白い液体が入っている。ラベルが張ってあり、そこには名前が記されてい た。値段を見れば900ゼニー。値段からしてランカーではない自作ポーションらしい。  ポーション。一体どんな味がするのか興味があった。  他にもアルケミらしく、並んでいるのはどれも製薬品ばかり。レジストポーション、アシッドボ トル、アルコールその他もろもろ。製薬ケミさんらしい。  少し考えて、私はその白ポーションを買う事にした。 「じゃあ白ポーション、一つ頂戴」 「これですか?はい、900ゼニーになります」  たった一つの商品でもアルケミさんはにっこり笑って白ポを取り出す。  通貨の種類は知らないはずだけど、この世界の文字を無意識に読めたことから、お金の種類も不 思議とすぐにわかっていた。  アルケミさんにお金を渡して、白ポを受け取って私はその露店を後にする。  有り難うございます、と言う声が後から聞こえた。  コルクで栓のしている白い液体。日に透かしてみれば意外と透明度は高い。 「さてっと、プロ南行って見ましょうか」  ようやく近づいたプロンテラ南門。その両脇には衛兵の姿。衛兵と言うと紫髪の可愛い女の子が いるんだよね、と私はその傍まで行く。  が、そこにいたのは強面のごつい衛兵が二人。  衛兵達は通り過ぎる人たちをまるで睨みつけるように監視する。  ……こ、こわいよ、もうっ! 「ほーわーぁー」  門を抜ければ広い草原が広がっていた。そしてそこには、冒険者が声を張り上げ仲間を募ってい る姿がある。 「あ、そこのウィザードさんっ!アルデバランに行きませんかー」 「力のある方、私達のパーティに入りませんか」  チャットのような看板はどうやらないらしく、その各々が声を上げ自己アピールや勧誘を繰り返 す。  私のように何も声も出さず、色々と物色している人もいるし、募集に入っていく人もいる。  その中で気が付いたのは、ローグやアサシンが殆どいないこと。元々ローグが臨時に来ること自 体稀だけど。  臨時広場にいるのは何も2次職ばかりじゃなく、1次職も多くいた。むしろ1次職の方が多い。  そして何よりも、転生職が全くいないのが目に付いた。  転生実装から大分たった昨今、これだけ臨時広場に転生職がいないと言うには余りに不思議な光 景で、名無しとか棚とか転生必須な募集は全くない。 「なんか、不思議な感じ」  私がいた鯖の臨時広場はいまや名無しか棚くらいで、他の臨時募集など滅多に見られないのにこ こではその滅多に見られない募集が多い。  OD行きなんて私初めて見たよ。凄いのになると、ODどころか東兄貴募集もあったりするくら いだ。何が凄いって、東兄貴募集に2次職がいるんだよ?どう見ても火力過剰じゃない。  PTが決まって狩場に向かう人たちや、なかなか集まらなくて解散になった人たちもいる。 「これが臨時パーティ、かあ」  どう言った狩りをするのだろう。少し気になる。でも、スキルの使い方も知らない私がそれに潜 り込むなんて無理な相談だ。弓だって打てる気がまるでしない。  ちょっとは興味あったけど、何も知らないで狩りにいって全滅なんてやりたくない。  とりあえず、スキル使えるかどうか試してから、飛び込んで見ることにしようっと。