ごく平凡な商人の平凡な一日の一幕 「おい、コレを見てくれ!」  熱血鉢巻き装備でいつもどこか暑苦しい、以前からアルベルタを溜まり場にしているモンクが現れたのはついさっき。 「いや、俺転生したからっ、転生したからっ!」  ああ忘れてた。こいつ、いつの間にか転生して、「どこでレベル上げればいいんだー!」って俺に泣きついてきたんだっけ。  そのとき、物凄い突込みを入れる騎士子と、いつも妙な論文を垂れ流すセージと、それをさらりと受け流すプリは一緒には居なかった。あれから結構経ってるし、人には事情ってものがあるんだろう。 「いい加減名前くらい覚えてくれ! 俺ケンゾーだからっ!」  改めて自己紹介をされるが、今の俺は返答ができない。  なぜなら、ハーブカルビ焼肉の味が口いっぱいに広がっているから。 「じゃあ早く飲み込め。なんなら俺がこの鉄拳でケツの穴まで押し込んでやろうか!?」  お下品な発言はもはや日常茶飯事。迷言もまた然り。 「え、えと、腸って確かとっても長いんでしたよね? ケンゾーさんの腕ってそんなに伸びるんですかっ?」  そしてこいつのズレすぎたボケも相変わらず。わざとなのか、それとも素で言ってるのかは未だにわからない。 「それはいいとして、何を見ればいいんだ?」 「おう、コレだコレ!」  そんなこんなで焼肉を飲み込んてから聞いてみると、返答に困っていたケンゾーはベルトの裏から黄色に光り輝く石を取り出した。 「エンペリウムか。どーしたんだ?」 「今朝買った紫箱から出た青箱から出た青箱から出た青箱から出たプレゼントボックスから出たんだよ!」  その負けフラグを諦めず、上方修正した根性は認めたい。 「これはすげーよ運命的だよ! ああチクショウとうとう俺の努力が天に認められたっつーかなんつうかさぁ……!」 「100k」  英雄の前に現れるとか、そんな伝説も相場の前では何の意味を為さない。前にいい値段で売れるかと期待して買ってみたが、結果は惨敗だった。 「80kでも売れるかどーかってところだなぁ」 「うわ、聞きましたミーティアさん。この商人さん酷いよ?」 「え、えと、特に需要もないし、売れませんから……」 「ちくしょおおおおおおお!!!」  苦笑いでごまかされ、両腕で頭を抱えてケンゾーは悶絶した。 「俺の、俺の2000000zがぁぁああああ!!!」  紫箱が1個2Mしたのって何年前だろうか。現役の俺ですら記憶にないくらい昔なのは確かだけど。 「毎日こつこつこつこつスリーパー狩ってグレイトネイチャ集めた俺と、それ全部分解したばーちゃんの苦労が! たったの10000zだって!?」 「なら、箱に手を出す前にうまいもんでも買ってやればよかったじゃないか」 「ちくしょう……。ばーちゃん、ごめんよぉ、ごめんよぉぉぉぉ……」  大の男、しかも転生済みのチャンプがテーブルに突っ伏して泣き散らす。うざったいったらありゃしない。 「100kだぞ」 「え?」 「それ買ってやるから泣くな。あと、無駄遣いはこれっきりにしろよ」  このままだと同情したミーティアが2Mでエンペを買いかねない。そんな俺の判断。 「やっぱお前はいいやつだ!!」  いや、良心を上手く利用されているだけなのかもしれない。  というわけで、今こっちは大きな事件もなく平和。  モロクが壊滅状態だったり、魔王が作った次元の狭間に異世界に繋がる穴ができたとかいう話は聞くけどな。