1話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0392.txt 2話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0393.txt 3話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0394.txt 4話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0395.txt 5話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0399.txt 6話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0400.txt 7話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0401.txt 8話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0404.txt 9話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0408.txt 10話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0410.txt 11話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0411.txt 12話 http://yumemachi.s148.xrea.com/craft2/upload/src/up0413.txt -----------------------------------------------------------------------------------------------------------------  あたりは完全に夜で、私はリトと一緒にラヘルの街に向かっていた。  リトの手にはスタッフオブカーシングは握られていない。またどこそかに埋めてきたのだ。  いくら投売りされている(ゲームでの事ね)SoCも倉庫すら入れてくれないとはなんと嘆かわしいことか。  聞けば、街の外至る所に武器とか隠しているらしい。何かあった時にいつでも戦えるようにとの事だ。もし、知らない人がそ れ見つけたらすごいびびりそうな気がするんだけどなあ…。 「……えっと…」  歩きながらこちらを見ずにリトは口を開く。 「何?」 「……君は、怖くないの?」 「怖く…?」  こちらを見ないリトを前に私は首を傾げた。 「さっきの戦闘の事?  刃向けられたのは怖くないといったら嘘になるけど…、平気だったな」 「そうじゃなくて…」  リトは足を止める。前を歩き、そして夜の闇の所為で表情は伺えない。 「僕の事は怖くなかったのか、と…」 「リトの事?」 「ガリオンがいるフィールドに誘導し、わざと相手を動けないようにした事とか…」  その言葉に私はため息をついた。 「見縊らないで欲しいな。  私バードだよ?  リトが無理してるのその声でわかったし、見捨てるつもり初めから無かったでしょ」 「そんな事、判らないじゃないか」 「あれがリトの本性なら『そんな事、判らないじゃないか』なんて、今言う台詞じゃないよ。  そうだな、もしそれなら『ありえないな、そんな事』じゃないかな?」  ちっちっち、と私は指を動かしてみせる。こちらを振り向いたりとの顔はきょとんとしたようなそれで私はそれに笑って返し た。 「ちょっとは気になったけどね。  死ぬのが怖くない、って言っていたヴァンベルクが顔色変えたのはなんでかなってね」  あれだけ、神のお膝元に行けるのならば、とかそんな感じの奴が手の平返したように命乞いするのは奇妙な光景だった。 「ガリオンと言うのは腐敗した肉を好物としているんだ」 「腐った肉?」  ドロップにそう言うのあったなあ。 「獲物を捕獲したら、生かしたまま巣に持ち帰り、そこで獲物を腐らせる習性があるらしい」  …………。 「ちょ、ちょちょちょちょっと待って。  もしかして生きたまま腐らせちゃうの…?」 「ああ。そう言う痕跡が残っていた」  え、えぐい、えぐすぎるよガリオン…。てっきりガリオンの肉が腐ってるのかと思ってたのに。  ああ、だったら納得するなあ。素直に殺してくれた方がずっとマシかも知れない。 「だけど、ヴァンベルクってヒールとか使えたんだなー」  先ほどの会話を思い出し、私は呟いた。アイシラはヒール使えた気がするんだけど。やっぱり神職についているからなんだろ うか。 「君がさっきから言っているヴァンベルクって言うのが良くわからないのだけど、さっきの人たちは使える事には使える。  ただ、あの状況では使いようは無かっただろうけど」 「なんで?」 「魔法を使う為の行動が取れないんだ。  オーディン信徒は詠唱、発動詞で魔法を使えるけど、フレイヤ信徒は詠唱ではなく印を切り、発動詞で魔法を使うんだ。  だから腕が使えないと魔法は使えない」 「発動詞…?」  どっかで聞いた事のある言葉だ。 「ヒール、とかブレッシングと言ったその魔法の大元になる言語が発動詞だよ」 「……へえ…」  ……やっぱりゲームとは違うもんなんだなあ…。…って、あれ?  私はリトの言葉を反芻しながら妙に引っかかるものを感じた。  私、リトが『ヒール』とか『アスムプティオ』とか言ってるの聞いた事ないし、詠唱もしてるようには見えないんだよね…。  オーディン信徒のハイプリだよね?スキル使う時印を切ってるよね?なんか凄く不思議なんだけど?  目の前にラヘルの門がある。少し歩けばガリオンがいるというのに、開けっ放しじゃ危険なんじゃないのだろうか。うっかり 子供が門の外に出て行ったりとか…そう言うのはどうなっているんだろう。 「ユーリ」  名を呼ばれ私はリトを見る。 「僕はこれをジェド様の所に持っていくから、ユーリは先に宿に戻っておいで。  この大通りを真っ直ぐ言った所…覚えている?」 「…う、うん。でも…」 「ごめん、こればっかりは連れて行けないんだ。時刻も時刻だし、これから行く場所は神殿でもないから」 「そう、なんだ」 「大丈夫、直ぐ戻るから。それにちゃんと話すから。  心配しないで待っていてくれるかい?」 「…うん。判った」  そう言ってリトは北に向かう道を進んでいく。そちらの方向…、ジェド大神官の屋敷だろうか。  姿が見えなくなるまで、私はリトの後姿を眺めていて、そして宿に向かう道を歩いていった。  噴水が見えた。  明りの少ないその場所でも、水の動きは僅かな光に反射しているようでキラキラと輝いている。  なんとなく、噴水脇のベンチに腰掛けて私は空を仰いだ。  満天の星空。漆黒のビロードに散らばる零れ落ちそうなほど煌いた空の宝石。……ちょっとくさいかな。  今日聞いたリトとユーリの話。  島送りにされた二人の父親。  先日表に表れたユーリが言った、ゾンビスローターに対する父親発言。  名も無き島に連れて行かれたんだろう。もしかしたら、リトもゾンビスローターの仲間入りになっていたかもしれない。…想 像して、ちょっと怖くなった。  ……じゃあ、二人の母親はどうなったんだろう。  リトの話には一切出てこない。他の皆もその事を言わない。 「……平和って幸せなんだな…」  私が生活していた所は人の生き死にはこんな身近なものなんかじゃない。  だけど、ここでの死は直ぐ身近にある。  さっきだって、私は下手をすれば死んでいたかもしれない。  例えばあの「寒いジョーク」や「パンボイス」、カードによる「ハイディング」。タイミングを間違えれば私はここにいなか ったかもしれない。そう思うと、今更ながらに身体が震えてきた。  リトは怖くないかと聞いてきた。  ……怖いよ。リトを見てたらなんだか安心してたけど、一人になって反芻するとやっぱり怖い。  あのリトがあのような冷淡な顔をして、威圧して。自分の弱さを出さないよう気を張らなくちゃやっていけないその行動が、 少し怖い。  ばらばらで動いている、このギルド。確かに効率的だと思う。…だけど、ギルメンなのに干渉は余りに少ない。ユーリもギル ドメンバーなのに、中に入っていけない。 「……なんか、ごちゃごちゃしてきた…」  揺れる星夜はいろんな事をぐるぐると頭の中にめぐっていく。  良いのかな、このままで。  ギルメンなんだから一緒に行動しなきゃというのは私の勝手な思い込みなのかな。  そんな事を考えている私の耳にぽーん、と弦を弾く音が聞こえた。  何事だろう、とそちらを目にやれば深く帽子の被った人物が星夜の下、弦楽器を携えているのが映った。  低音の音色が噴水の広場に響く。夜も深まったと言うのに楽器を奏でるとは何なのだろう。 「今晩は、お姉さん」  薄ぼんやりと浮かび上がるその人物は着物のような物をその身に纏っていた。……女性の、ソウルリンカー…?  いや、それよりも彼女は私に向かってお姉さん、と言った。 「……何を言っているんですか?…僕は…」 「否定しなくても良いんですよ、お姉さん」 「………君は、誰…?」 「…私はただの水先案内人。よろしければお時間を少々いただけますか?」 「え?でも、私……」 「時間は取らせません。さぁ…」  ソウルリンカーは口元を微笑みの形にすると、す、と歩き出す。誘う様に、こちらを振り向きながら。 「………」  惹かれたのだろうか。拒否する事は私には出来なかった。それはまるで夢遊病者のように彼女の後を私はついていく。  不思議な感覚だった。まるで霧に覆われた道を進むかのように、あたりの景色が流れていく。疲労していたはずだったのに、 進む事が全く苦ではない。  どれだけ歩いたのだろうか、たどり着いたのは1本の枯れた大きな木。彼女はそこで足を止めた。 「…ここは…?」  見れば枯れた花束がそこに置かれている。闇夜に浮かぶその枯れた木が途端に墓標に見えた。  かさかさと風に吹かれるその枯れた花びらが音を出し、それが尚も一層物悲しさを際立たせている。 「間もなく、彼も来ましょう」 「……彼?」  ソウルリンカーは消え入りそうなその声で私に向かって口を開くと、何もないはずの闇に視線を走らせる。  と、青白い光が目の前に浮かんだ。 「…な、何が…っ!?」 「リトっ!!?」  不意に現われる、その姿。ユーリの兄、ハイプリースト・リト。 「ユーリっ!?」  私の姿を見止め、リトの表情は驚愕のそれ。訳のわからない展開に頭の方が追いついていないようでしきりに辺りを見渡して いる。そして、ある一角が目に入ったのか、リトの動きはぴたりと止まる。リトの視線の先、そこにあるのは墓標のような木 「………こ、ここ……は……」 「ここは貴方の犯した罪」 「……っ!!」  呟くようなリトの言葉を続けるように声を発するソウルリンカーに、弾けるように彼女を見るリトの表情は私の目でもわかる ほど青褪めていた。 「でも、そう思っているのは自分だけだ。捨てたわけじゃない、探していたのだろう?」  その声はリトの後ろから聞こえた。ざあっと風が舞いはためくそのローブを纏うその人物は、顔をすっぽり覆う仮面をつけて いて容姿はわからない。ただ声からまだ若い男性だと伺えた。 「…っ、何者ですか…っ!?  貴方方は…っ!!」  警戒露わなリトに、私も身構える。突如現われた謎の二人はそんな私達の様子にちらりとお互い目配せしたように顔を傾ける と、ほんの僅かだがその口元が綻んだ。 「ただの、お節介焼きです」 「そう、ここに残るにしろ、残らないにしろ、その選択肢を提示しているだけさ。  あんたがここに来たのは偶然か必然か…、それは俺達にもわからない。  宙ぶらりんのまま彷徨うよりは幾分マシかと思われるけどな、お嬢さん」  男の言葉に私は目を剥いて二人を見る。 「……貴方方も…『OS』…!?」 「さあ?『OS』と言われればそうかもしれませんし、そうではないかもしれません。  私達はその定義に掛かる存在ではありませんので。  …私達の事よりも、まずご自分の身内の事から明らかにすべきではありませんか?」  ソウルリンカーはそう言うと、自身の持っていたその楽器を枯れた木に立てかける。ざわ、と風が辺りを舞った。 「俺達がするのはここまで。  後は二人で相談するといい」 「ちょ、ちょっとまってよっ!!  急に現われてそんな事言って!!  無責任じゃない!!?」  立ち去ろうとする二人に思わず私は食って掛かり…、ふと男の方が苦笑を浮かべたのが目に入った。 「これでも、十分過ぎるほど親切にしてるんだけどな」  な、とソウルリンカーに伺えば、そうですね、と彼女は微笑んで、そして二人の姿はまるで風に攫われたように忽然と消えた。 「………な、なに、あれ……」  呆然とその消えた先を眺める私は、同意を求めるようにリトに振り返る。と、リトはただ呆然とソウルリンカーが置いた楽器 を凝視していた。 「……リト……?」 「嘘だ……。なんで、……なんで、これが……」 「リト?」 「壊れたはずだ、無い筈だ…。  ここで、この場所で…、母さんと共に、ここで、朽ちた筈なのに…」  暗いこの場所でもわかるほど蒼白なリトの表情、がくがくと身体を震わせて、その視線はただただそれしか見えていないよう で。 「リトっ!」 「わかっている、わかっているんだ!!  例え朽ちても、僕の罪は消えやしない!!消える筈なんかあるものかっ!!!」 「ちょっと、リトっ!!  どうしたの、一体!!  え!?コレが原因!?」  ソウルリンカーの置いたその楽器、どうやらギターのようだが少々歪な形をしている。なんだっけ、えっとこの形のギターっ て…。  思わず私はそれに手を伸ばし掴んだのと同時に、私はリトの悲痛な叫び声を聞いた。 「僕が、ここで母さんとユーリを見捨てた罪なんか消えるわけなんかないんだ!!!」 *********************************************************************************  俺は、覚えているんだ。  あの時の兄さんは俺達を見捨てていなくなったわけじゃない事くらい。  母さんだって知っていた。魔物に足をやられて動けなくなった母さんは、無理やり兄さんを送り出した。  兄さんは俺も連れて行こうとしたけど、母さんは俺をその腕で抱いたまま離そうとしなかった。  母さんは気が付いていたんだ。  俺が付いていったら兄さんも途中で力尽きるだろうって。  追い立てるように兄さんを送り出した母さんは、何度も「ごめんね」と俺に言ってた。  その時の俺はなんで「ごめんね」と言われてるのか判らなかったけど、大好きな兄さんと離れ離れになるのが悲しくて大泣き してた。  その都度ごめんね、と謝っていた母さんは魔物に殺された。  満足に動けない身体で、この楽器を取って懸命に戦って、そして死んだ。  俺はこの木の洞に隠されて魔物に気づかれなかったけど、その一部始終を隠れながら聞いていた。  怖かった。泣いて叫びたくても、怖くて怖くて声も上げられなかった。  何かが砕けた音、ひしゃげた音、潰された音。ガタガタと震えながらただただそれを聞いていた。  俺も母さんみたいになっちゃうんだ。  そう思ってた時に、俺は聞いたんだ。  複数の足音、怒声、そしてその中に弱りきった声で俺を呼ぶ兄さんの声を。  俺は兄さんを恨んでなんかいない。  なのに、どうして兄さんは俺を見てくれないんだろう。  なんで腫れ物を扱うようにしか接してくれないんだろう。  なんで兄さんは自分ひとりで苦しまなきゃいけないんだろう……。  なんで、なんで……。 ********************************************************************************* 「………あ…」  不意に流れるその心は悲しそうに震えていた。  これは、ユーリの心?  今まで曖昧な、まるで夢のような意識が今すとんと私の中に流れてきた。  私は無意識にその楽器を構えて弦を弾いた。 「…………………ユー…リ……?」  指が自然に動く。静かなメロディ、何の曲かわからないけど身体が覚えているのか、その音色に沿って私の喉から唄が零れた。  何の唄かもわからない。ただただ、無意識に紡ぐ唄は荒野に優しく響く。それはまるで全てを許すかのように、優しく包み込 む。  ふと声が聞こえた。 『あなたは間違ってないのよ。あなたのお陰で、ユーリはここにいるの。  だからもう自分を責めないで』  風に紛れて消え入りそうではあるがとても優しい声だった。 「……母……さん…」  呟くような放心した声を発したリトの目から一滴の涙が落ちたのを私は見た。