結局の所――――名前が分からない、という流れに乗って、記憶喪失という事で押し通してみた。  まぁ、名前が分からなかったのは真実だし、嘘は吐いていない。  この体、本来の記憶も無いのだから、嘘では……流石にそれは無理があるか。  ともかく、記憶喪失、という事で強引に納得して貰った二人から、自分の生い立ちやら、ベッドで寝ている経緯を聞いた訳だが……。  正直、内容が多すぎて、混乱しつつある。  俺と同等かそれ以上に混乱してたであろう二人が理路整然と説明出来る訳も無い。  面会時間過ぎた為に、送り返された二人を見て、入院してる実感をようやく得た俺だった。  まぁ、それはさておき、とりあえず聞いた話しを纏めるとしよう。  あ、すいません、メモ出来る物とペン貸して貰えます?  しっかしまぁ、ものの見事なまでに、ROそのものですよ、この世界。  さて、どこから纏めてみるか。  順当に、俺の事からか。  ・名前は玖凪=十夜。読み方としてはクナギ=トウヤ。  ・年齢は十六。  ・実家は天津の宮司の家系で、そこの三男坊。兄二人、姉一人、妹一人との事。  ふむ。  名前が日本風なのは、やはり天津だからだよなぁ、コレ。  ちなみに、あの二人のことだが、本人達が言う様にいとこらしい。  ハイウィザードの方が、櫛灘=深月(クシナダ=ミツキ)。  ハイプリーストの方が、櫛灘=咲夜(クシナダ=サクヤ)。  年齢は十九。  玖凪家が仕える、櫛灘家の双子巫女という事だ。  宮司よりも巫女の方が地位が高いのか、と妙な納得した自分が居るのはどーしたものか。  まぁ、実家で色々あって、六年程前には天津を出ていたらしい。  その玖凪の三男坊が何故にベッドで寝てるのか、と言えばだ。  ・トウヤが十五になると同時に宮司の後継選択の儀。これは順当に長男。  ・自由になったのを良い事に、天津を出てルーンミッドガッツ王国へと渡る。  ・この際、先に王国へと来ていた双子の元に身を寄せる。  ・半年程掛けて、王国での生活習慣を学ぶ。  ・残りの半年で初心者修練所で修練を重ねる。  ・初心者修練所を卒業し、アコライトになる。  ・アコライト試験合格祝いという事で、双子に連れられ企業都市ことリヒタルゼンへ旅行。  ・運悪く、テロ(ROお馴染みの、“古木の枝”を使った“枝テロ”というヤツだ)に巻き込まれる。  ・民間人と一緒にトウヤを避難させて、テロ鎮圧に協力しに出撃する双子。  ・トウヤ君、いらん好奇心出して避難所から外へ出たら、これまた運悪くモンスターに遭遇。  ・テロ鎮圧して戻ってきたら、トウヤが居ない。  ・探し回ってたら、とある企業の運営する病院に担ぎこまれたと聞く。  ・そして、目が覚めたら記憶喪失。  ……なんか、色々とツッコミどころが有り過ぎる。  いきなりヒモ状態とかどーなんだ、トウヤ君よ。  文化が違うたって、半年ヒモは拙いだろう、色々と……。  冒険者になるのは……まぁ、良い。それは俺にも都合が良いし。  だが………… 何 故 に ア コ ラ イ ト な の か な っ ! ?  いや、いとこ二人がプリにウィズなら、ナイトかクルセで壁になるのを選ぶべきじゃなかったのだろうか。  ……単に適正がアコしか無かったんだろうか……。  まぁ、アコになったもんは仕方ない。  たぶん、転職とかそう簡単じゃないだろうし……ゲームなら、手動転生とかいう冗談ですんだんだが。  挙げ句に、テロ巻き込まれた状況で好奇心出すとか。  どんだけチャレンジャーなんだろう。どう考えてもアコの性格じゃないだろ、コレ。  しかも、アレだ。  ――――“とある企業の運営する病院”  明らかにあそこである。  ROでクエストやる度に、ロクでもない結果を見せ付ける企業。  ……そう、レッケンベルだ。  やばいだろ、コレ。  生体研究所フラグとか立ってないだろうな……。    しかし、双子の職や格好。  更に天津だのルーンミッドガッツ王国やら、リヒタルゼン。  ここまで揃ったら確定と思って良いんじゃないだろうか。  理由も分からない、理屈も不明。  だが、俺が今ここに居る世界は、Ragnarok Onlineである、と。  とは言え、あの二人が誰かに操作されてる、とは考え難い。  そう考えると……ROというゲームの中というより、ROという世界の中と考えるべきなの……か?  ……ふむ。  ゲームの中だと言うなら、ステータスウィンドウやら、装備ウィンドウが出せても良い筈である。  だが、俺の視界には、その類が……類が……無い。無い筈なのに、なんだ、このBaseLvとか、JobLvって。  挙げ句がHPにSPか。  視界にはっきりとある訳ではない。  だが、視えて理解出来るのだ。数値とゲージが。  ……コレが普通なのか?  もしそうなら、ゲームの方って事になるんだが。  だが、ゲームだというなら、ステータスだって見える筈である。  しかしステータスやら装備といったウィンドウは無い。 「すてーたすうぃんどうおーぷん、とか言ったら出たり……な…………」  出たよ……。  ホントに勘弁しろよっ!?  まぁ、良い……良くはないけど、置いといて、とりあえず現状のレベルとステータスを確認する。  [BLv14/JLv1]  [Str:10/Agi:3/Vit:1/Int:1/Dex:25/Luk:7]  ……ホントに転職直後と来たもんだ。  挙げ句、ベースが十四て事は……チェイン装備可能レベル調整ですね、分かります。  しかし…………どっかで見たステ振りなんですがー?  アコライトで、StrとDex振り?  挙げ句、がAgi3でLuk7ってアンタ……。  まさか、これでプリーストって事はないよなぁ。  明らかにあの型狙いだろ。  ……プリ、ウィズが居て、このステ振りか。  色々とツッコミたい気もするが、既に振られてるのは仕方ない。  それにこれはこれで都合が良い。  俺が最近遊んでたのは、このステで成長したモノだし。  ……問題はステ完成するまで、かなり長いんだよな、コレ。  しかも、資産無しとか、どんだけマゾ仕様ですかねっ!?  それと不思議な事が一つ。いや、既に幾つもあるんだが、不思議な事は。  ROのステータス画面と違って、基本ステータス部分のみしかないのはどういう事か。  AtkやらDefやらFleeやらが一切無いんですが……。  …………良いか。考えても分からん。明らかに情報不足だしな、今。  ステータスが見れたのだから、他のも見れるのかと思って口に出したりしてみたが、ほとんど出ない。  ステの他で出たのは、スキルだけだった。  装備やらのショートカットは……何で開けないんだろうか?  元々存在しないのか、それとも強制的に開けなくなってるのか……。  そこらは明日にでも双子が来た時に聞けばよかろう。  しかしまぁ、下手に現実世界染みて、訓練し続ける事でしか強くなれない、とか言うオチじゃなくて良かった。  これならモンスターと戦うだけ、で…………。  …………。  ……。  あぁ、戦わないといけないのか、コレ……。  えーと、何だ。  ポリンやらのゼリー状生物なら、まあ、良い。  ホーネットやらホルンやらの昆虫系も……でかい蜘蛛とか、ちと勘弁だが、何とかしよう。  ペコペコやらウルフとか……結構厳しくないですかねっ!?  挙げ句に、深遠の騎士とか、悪魔系とか殴り合いとか無理だからっ!  中身一般人にあんなんと殴り合いとか、マジで勘弁だからっ!?  と、思ったんだが、想定通りに転職してステ出来れば、比較的安全じゃないだろうか。  真面目に殴り合いするようなステじゃないし。  ……よし、じゃあ、この方向で行こう、うん。  狩り方としては、今時のROじゃ希少種な気がするけど、気にしない事にする。  さて、最後に、これからの目標を定めるとしよう。  第一目標は……死なない事……だよなぁ、やっぱり。  衣食住足りて礼節を知る、何て言葉もあるので、それなりに稼ぎつつ生き残る、と。  一般職に手を出すというのも考えないでは無かったが、いざ情報が手に入った、という時に自由に動けない可能性があるのは問題だ。  しかも、冒険者……と言って良いのかわからないが、ダンジョン探索とかすれば元の世界に関する文献とか発見する可能性も――というのは、流石に欲張り過ぎか。  第二目標は言うに及ばず、“俺”の居た元の世界に戻る、という事だろう。  まー、そう易々と分かる等とは思っては居ない。  とりあえず、ヴァルキリーと会うのを目標にしたい所。  ここで全く分からなければ、正直打つ手は無いだろうし。  ……いや、流石に主神のトコまで行く気は無いし、行き方がわからん。  とりあえず現状ではこんな所か。  第二目標が高みに有りすぎて、正直どうしたモンか分からないのが問題ではあるが。  ……第二目標が既に最終目標な辺り、どうしようもないな、コレ。  さて、それじゃ双子が来るまで寝てようかね。  …………寝たら、人体実験とかされてたりしないよね!? 「トウヤ、起きてる?」 「起きてるよ。おはよう、ミツキ、サクヤ」 「うん、おはよう、トウヤ」  翌日、朝食を終えてすぐに双子が面会に来た。  ちなみに、どうも、トウヤ君はサクヤの事を“サクヤねぇ”と呼んで慕っていたらしい。  だがしかし、初対面そのものの俺が呼ぶ訳にもいかんだろう。  …………いや、俺が呼べないだけですが。  それを言ったらやたらと落ち込まれた訳だが、ホントにすいません。  尤も、それを言ったら年上相手なんだから、“さん”付けで呼ぶべきなのだが、嫌がられた、全力で。  そんなに嫌だっただろうか……って、慕ってくれた従兄弟が、記憶失ったからって他人行儀になったら嫌なモノかもしれん。  以上の理由により、タメで話させて貰っているのが現状だ。 「頭痛とかはしないの?」 「特には無いな。むしろ、この左目を抑えてる包帯が邪魔なくらいか」 「……ちょっと傷が深かったらしいからね、少しは我慢しないと」  むぅ。  昨日は混乱気味で分からなかったのだが、俺の左目を今現在包帯が巻かれているのだ。  違和感ってのは、これの事だったのかね。 「くそぅ、何で避難所から抜け出したんだ、俺ぇぇっ!? 貴様の所為で、貴様の所為でぇぇぇぇッ!!」 「いや、貴様の所為って、自分の所為じゃないか」 「んな事は分かってるんだよ、ミツキッ! だが、記憶の無い俺からしたら、恨むべきは過去の俺で、今の俺じゃねぇ!」 「まったく、記憶なくしてる当人より、私達の方が悩んでるって間違ってると思わない?」  ねぇねぇ、とか言って杖を突き出すな、こら。  こちとら怪我人だぞ!  ……えぇ、怪我人に手加減有りとはいえ、ソウルストライク叩き込む人でしたね、貴方。 「はいはい、二人ともじゃれて無いで、これからの事を話しましょう?」  実に建設的である。  うむうむ、年上の余裕というヤツですかなぁ、この辺り。  ……サクヤと同い年の筈なんだがな、ミツキも。  それはさておき、昨日聞こうと思ってた事を聞いておくべきか。 「なぁ、ミツキ、サクヤ」  ん? とこちらを向く二人。 「ステータスウィンドウは出るんだが、装備ウィンドウとか出ないの何でだ?」 「「…………なに、それ?」」  ……………………あれ?                     ここで生きる#2                     /現状確認 ――――Status―――― 玖凪=十夜/Acolyte BLv:14/JLv1 Str:10 Agi:3 Vit:1 Int:1 Dex:25 Luk:7 ―――――――――――――― ステ振りからして明らかにあの型を目指してるとしかっ。 バレバレでも言わないのがお約束ですよ?